1986年に訪ねて以来、20年ぶりにシルクロードを訪れることになりました。
中国内陸部のタクラマカン砂漠の周縁を中心に、天山の南北麓を結んで、 20年前に2ヶ月かけて巡ったところ、 今回は2週間あまりの駆け足で辿る予定です。
かつて、「シルクロード」という言葉には、エキゾチックで幻想的な響きがありました。
残念ながら、今は微かなノスタルジーは感じるものの、かつてのような未知の世界へ旅立つといった高揚感はありません。
20年という月日はあっという間だった気もしますが、世紀をまたいだこの20年の世の中の変化は凄まじいものがありました。
20年前、中国はまだ堅固な共産主義体制にあって、外国人の西域=シルクロード入域もかなり制限されていました。 その数年前からNHKが入って、あの大ヒットとなった「シルクロード」シリーズが放映されていたわけですが、その時の映像も、 見たことのない自然と文化に彩られていて、実際にそこに身を置いてみるということに興味をそそられたものでした。
あれから20年。中国は開放政策の波に乗って恐ろしいまでの進歩を続けています。 経済的にすでに日本を凌駕したといっても過言ではないし、 強大な経済力と市場としてのとほうもない可能性をバックボーンにして政治的にも大きな影響力を持つに至っています。
20年前、天安門広場には人民服を着た人たちの自転車が溢れ、車は数えるほどしかありませんでした。 西域のオアシスでは、ロバ車がのんびりと通りを行き交って、朝夕はコーランの朗唱が日干しレンガの街並に響き渡っていました。
ちょうど、久保田早紀の「異邦人」がヒットしていた頃で、そのテープを聴きながらタクラマカン砂漠を渡っていると、 幻想の世界に迷い込んでしまったかのようでした。
20年前にシルクロードを訪ねる際には、事前に得られる情報は、それこそNHKの報道が全てといってもいいくらいで、後は、 近代に中央アジア探検を行ったヘディンや大谷探検隊の記録を紐解く程度が関の山でした。
それが、今ではGoogleEarthで、シルクロード主要都市の路地裏から、 タクラマカン縦断公路を走る車の一台一台までクローズアップして、 3D化した映像でそこにいるかのようにシミュレーションが可能になっています。ネット上には、細々したオアシスの旅行記だけでなく、 ライブ映像までアップロードされています。
今回辿るルートは、すべて高精細の衛星画像でチェックできる上に、各オアシスではネット接続が可能となっていて、 またぼくが使っているDocomoのFOMA端末ではGSMをカバーしているので、そのまま現地で電話番号はそのままで着信できるし、 i-modeでの通信も可能です。
20年前は、ホテルのフロントに日本までの海外通話を頼んでから通じるまでに優に半日は待たされ、その回線も雑音が多い上に、 途中で切れたりしてしまったものでした。
都市化の波に洗われ、「辺境」は急速に姿を消し……自分の中でも、かつて「シルクロード」 という言葉に抱いたイメージは消え失せ、代わりに何が見えてくるのか……。
未知の土地への素朴な憧れや懐かしさではなく、世紀をまたぐ20年という時間が、何をどう変えたのか、 その背後にあるグローバリゼーションとは何なのか……そんなことが浮き彫りになってくるのではないかと、 そんな風に今度の旅では期待しています。
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