**毎日のホタル情報を発信する身延町ホームページ。
観測地ごとの出減数が日々記録、更新されている**
先日、山梨県の身延町で、ホタル見物をしてきました。
下部温泉の南、山間の一本道の横を流れる一色川が、ホタルの繁殖地になっています。23時近く、その畔に到着。 車を駐めてライトを消すと、いきなり一匹の蛍が目の前に舞い上がりました。
青い火の粉を思わせるように、ゆらゆらと不規則な曲線を描きながら、微妙な明滅を見せて登っていく蛍火は、なぜか、 ホッと心を和ませてくれます。
車を降りると、一色川の向こうの田植えが終わったばかりの田んぼからカエルの大合唱が耳に飛び込んできます。闇に目が慣れてくると、 沢沿いに、一つ、二つと青い光が目につき始めます。
葉陰に明滅していた光がフワフワと舞い上がり、それが沢を渡って、 おぼろ月の淡い明かりにシルエットなって浮かび上がる木立の上のほうまで登っていくものがいたり、 中には方向を誤って車道の上に着地してしまったり……。
もうだいぶ遅い時間で、ホタルも寝静まってしまうかと思いきや、じっと待っていると、次第にその数が増えていきます。
身延町のホームページで前日確認したところでは、下流のほうが多く観られるとのこと。そこで、下流へ車で移動して、 再び川沿いに散策。こちらは川幅が増え、岸辺の草地も広く、まずは、ぼんやりと広い範囲を眺めてみると、 そこここで青い光の明滅が浮かび上がってきます。
一カ所に10匹近く集まって明滅していたかと思うと、その背後でゆらゆらと一匹が舞い上がり、 それを追いかけてもう一匹が舞い上がり、絡み合うその二匹が群れの上空を通り過ぎると、 群の中から一匹また一匹と先行する光をスーッと追いかけはじめ……。
この光景を観ていると、昔の人がホタルの光に、人の魂をだぶらせて思い描いていたのが、ごく自然なこととして共感できます。
野坂昭如の「蛍の墓」を宮崎駿が映画化したあの映像の中では、 あまりにも哀しい魂の旅立ちを美しすぎるホタルの飛翔に置き換えて表現していました。
あんなシーンが演出できるのは、こうして、里山に飛ぶホタルの姿を実際に見ていなければできるはずがありません。
様々な種類のカエルの声が響き渡り、山の端に掛かるおぼろ月に水を張ったばかりの水田が浮かび上がり、 その上を飛ぶホタルの光が水面にも映り込み、吹き渡る風は爽やかで、つくづく、日本に生まれ、この日本の里山に身を置いて、 自分もこの風景の中に溶け込んでいられることの至福を感じます。
でも、かつては、日本のどこにでもあったこうした初夏の風景も、地道な努力をして維持されているのが現状です。
この身延町では条例を設けて、ホタル生息地周辺での農薬使用を制限したり、 ガードレールに反射した光が川筋に漏れないように黒い覆いを掛たり、また一色川沿いの他にも「ホタルの里」を設けて、 整備に取り組んでいます。
ホタルが群れ飛ぶ夜が、あるがままの自然の光景であった頃、そんな時代を取り戻すためには、どうすればいいのでしょうね……。
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