昨日は久しぶりに某誌の編集者S氏と打ち合わせの後、酒を飲む。そこで、彼の奥さんを紹介される。
去年の11月、ぼくとS氏は、大発達した低気圧が過ぎた直後で、台風並みの風が残る中を大揺れの飛行機に揺られて能登へと向かった。 地上すれすれで羽根を擦りそうになりながら飛行機はなんとか着陸し、地上も強烈な風でレンタカーのプリウスが吹き飛ばされそうだった。
二人で取材物件を巡りながら、車の中から嵐の風景を眺めているうち、S氏が急に、「ぼく、結婚することにしたんです」
と、いつもにない思い詰めたようなトーンで切り出した。
「他の人に話すのは初めてなんですけど……」
結婚に至る経緯やら、奥さんとなる人がどんな人で、普段、二人でどんな話をしているのか、そして、 結婚後の生活の展望といったことを訥々と話してくれた。
ぼくは、そんな彼の話を聞きながら、『この人は、じっくりとしっかりと自分の人生に向き合って生きてるんだなぁ』と、感じ入った。 そして、彼にとってとても重大な人生の選択をぼくに真っ先に話してくれたことが嬉しかった。
ちょうどあの頃、ぼくは、長く続いてきた結婚生活に終止符を打とうと思い始めていた。自分の結婚生活と、彼の結婚への思いを比べて、 ぼくには彼のように事に当たっていろいろな角度から熟考する思慮深さが決定的に欠けていたことを自覚させられた。
11月に5ヶ月だった奥さんは、臨月を迎えて大きなおなかをしているが、まだ仕事を続けていて、 先に飲んでいたぼくたちに後から合流した。
ぼくに結婚の報告をしてくれてからの後日談を二人で楽しそうに語り、本来、酒がかなりいけそうな奥さんは、 自分では自重して烏龍茶を頼みながらも、時々、旦那のビールや焼酎をちょっぴり舐めて、茶目っ気のある笑顔を見せる……。 二人の息の通い方が、とても穏やかで柔らかくて、あっという間に時間が過ぎてしまった。
昨日は、冬型に戻って体の芯まで冷えそうな夜だったけれど、二人から幸せのお裾分けをいただいたようで、なんだかとても温かかった。
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