不思議な夢を見ました。
そこは確かに沖縄で、ぼくは今回が初めての沖縄のはずなのに、馴染みのぜんざい屋があって、 幅半間で奥行き二間ほどのその小さなぜんざい屋を切り盛りしているオバアもなぜか顔なじみ。
「今から美味しいぜんざい作ってあげるからねぇ。そこにおとなしく座って待っといてねぇ」
と、オバアが台所のほうに入ると、すぐに甘いぜんざいの香りが漂ってきます。
ところが、その甘い匂いに混じって、なにやらきな臭い臭いが……。
その臭いが表から漂ってくることに気づいて、飛び出してみると、店の傍らの斜面が地震でもないのに、ガラガラと崩れていきます。そして、 足の裏から腹の底に鈍い衝撃を感じたかと思うと、道を挟んで店の反対側にあった山が一つ丸ごと崩れて、 一瞬のうちに平地になってしまいました。
そこで、目が覚めたのですが、気分は何故か爽快。それまで抱えていたストレスが一気に吹き飛んだような感じ……あるいは、 古い自分が瓦解して生まれ変わったような感じでした。
**後に訪ねた久高島でも、食堂のメニューに、しっかり「氷ぜんざい」が**
横で飛び起きたぼくに驚いて、取材の相棒も目を覚まして、「どうしたんですか?」
夢の話をすると、「んー、なかなかシュールな夢ですねぇ。ぜんざい屋というところが、とくに秀逸だなぁ」と、妙に関心しています。
ぼくも、どうしてこんなところで「ぜんざい屋」なのかと思っていましたが、それは、二日目の取材をスタートすると、 たちどころにわかりました……というか、謎はますます深くなったのですが。
二日目の取材地、沖縄本島最北端の辺戸岬に向かって走っていると、沿道の食堂の軒先のほとんどに、「ぜんざいあります」 の幟や看板が出ています。
沖縄ではぜんざいがポピュラーなことはそれでわかったのですが、昨日は、記憶にある限りでは、ぜんざいの文字は記憶していません。 沖縄経験4回目で、移住も考えている取材の相棒も、昨日は見た記憶がないし、そもそも、こんなにぜんざいの文字を目にするのは、 今回が初めてとのこと。
結局、ぜんざいの謎を地元の人に聞くのを忘れてしまい、なぜ沖縄にぜんざいがというのは、いまだに謎のままです。想像するに、 北前船が九州から沖縄に昆布をもたらし、それが今では料理にふんだんに使われて、沖縄料理にはなくてはならないものになっていますが、 ぜんざいもやはり北前船に由来するものではないかと想像するわけです……どなたか、ご存知の方いらしたら、ぜひ教えてください。
といったわけで、今回は、沖縄のぜんざいの謎ということでした。
なんて、終わりにするわけにもいきませんね(笑)
さて、肝心の御嶽探訪の話です。
名護のホテルを後にして、R58をひたすら北上。左手には青い海。沖にはそこに環礁があるのを物語る白波がたち、 岸辺はあくまでも穏やかで、ここが南国であることをよりいっそう実感させてくれます。
名護を出てからのんびり走って2時間あまりで、沖縄本島最北端の辺戸岬に到着。じつは、今回訪ねる予定の安須森(あすむい)御嶽は、 おおよその場所はわかっているものの、正確な場所とアプローチは不明。それを辺戸岬で聞けばすぐにわかると思っていたのですが……。
朝食兼昼食のソーキソバを食べた食堂で聞いても、まったく聞いたことがないとの返事。 御嶽は地元の人の大切な信仰の場所だから無闇によそ者には教えないと聞いていたので、はぐらかされているのかとも思いましたが、 食堂のおばちゃんたちはほんとうに知らないようです。
他に聞こうにも、地元の人は周辺におらず、高い岩峰の頂上ということはわかっているので、周囲を見渡すと、 それらしい岩山が目に入りました。それに狙いをつけて、近くまで行くものの、なかなかアプローチが見つかりません。
**またもジャングルの中の踏み跡を辿ること10分あまり。ここが御嶽かと思ったが、 じつはここからが大変**
道をウロウロしていると、ちょうど測量をしている人がいたので尋ねると、「御嶽はわからないけれど、地元の人たちの拝み所は、 この先の細い道を行って、広場から歩いていけば出られるよ」とのこと。
確かに、小道の先に小広い……といっても車が二台も止まれば一杯の広場があって、そこから岩山へ踏み跡が伸びています。
例によって、頭上を奇声を上げる鳥が飛び交い、熱帯ジャングル探検そのものの雰囲気の中、辿っていくと、 明らかに人工の石組みと祠のようなものが祭られている一角に出ました。
ここが安須森御嶽かと思いきや、祠の背後にはロープと鎖を張った、岩登りのルートが……。
これが本土ならさしづめ厳しい修験の道場といった感じの岩登りが、30分あまり。急に尾根を渡る風の音が聞こえたかと思うと、 切り立ったやせ尾根に飛び出しました。
そして、見渡すと、先ほどこの岩山を遠望した辺戸岬から、ぐるっと、名護から辿ってきた海岸線沿いの国道も、 そして沖縄北部ヤンバルの原生林も遙か彼方まで見渡すことができます。この風景を拝めれば、ここまで辿ってきた険しい道の苦労も、 一気に吹き飛んでしまいます。
**ロープと鎖にすがって岩を登ること30分。岩山の稜線に飛び出す。 背後に釣り針方に伸びた岬が辺戸岬**
岩山の頂上には小さな祠が祭られ、きれいに手入れされています。この祠に手を合わせ、この景色を拝ませてくれたことに感謝。
麓にあった案内板には、長い琉球の歴史の中で、最重要な御嶽の一つとして、 この安須森御嶽には何百万人もの参拝者が訪れたと記してありました。狭く険しい道を黙々と登る人たちの姿を想像して、 ぼくは熊野古道を思い起こしました。熊野も「蟻の熊野詣」と形容されたように、かつては、 蟻が行列を作るように参詣の人が列を成していたといいます。
ふと、今の殺伐とした世の中は、そうした自然と一体になれるような体験をして、 自然が見せてくれる人智を越えた美しさを味わったことのない人が多すぎるためではないかと思わせられました。
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