ライアル・ワトソンの『生命潮流』という作品の中に、南太平洋の島で、イルカを呼び寄せるシャーマンの話が出て来ます。
ワトソンが生物調査のために滞在していたある島で、一人の老人が日がな一日入り江の浜辺に腰を下ろして、沖を眺めている。
ワトソンが何をしているのかと尋ねると、老人は、沖のイルカと交信して、この入り江に呼び寄せているのだという。
2日経ち、3日経ち、さらに数日経っても、何の変化も現れない。でも、老人はいつも同じ場所にいて、同じ格好で沖を眺めている。
そして1週間が経ったとき、たまたま傍らにいたワトソンに、老人は沖を見てみろと言う。
ワトソンには始め何の変化も見えなかったが、そのうち無数の白波が立って、それがこの入り江に押し寄せてくるのが見えた。老人は、 立ち上がると、「イルカがきたぞ!!」と叫ぶ。
すると島の住民たちは、手に手に棍棒を携えて、入り江に集まってくる。
イルカたちは、まさに怒濤のように入り江に押し寄せてくる。島人たちは、水の中に飛び込んで、イルカを抱きしめ、 身を捧げに来てくれた彼らに感謝の言葉を唱え、その命を戴く。
概要はそんな感じです。
**能登半島の先端近くにある須須神社は、 海からやってくるものを迎え入れるかのように鳥居が並ぶ**
じつは、同じような話が、能登にも伝わっています。今週、そんな能登のイルカ伝説と立山信仰を訪ねてきました。
能登の東海岸の入り江では、大昔から沖を回遊していたイルカたちが群れをなして入り江にやってきて、 それを獲って貴重なタンパク源としてきました。縄文時代の遺跡である真脇遺跡からは、おびただしい数のイルカの骨が発掘されて、 5000年前にはイルカ漁が非常にポピュラーだったことがわかっています。
そのイルカを祭る高倉神社は、珠洲市にあって、かつてはイルカが押し寄せたと言われる入り江に位置しています。この神社には、 イルカを生け贄にして、豊漁を祈願する儀式が伝わっていました。アイヌにはイヨマンテ(熊送り)と呼ばれる儀式がありますが、いわばこれは 「イルカ送り」と言えるでしょう。
**能登島にある蝦夷穴古墳。遠く、泰澄が開いた石動山を望む**
江戸時代、高倉神社は神仏習合で寺に取り込まれます。そのとき、殺生を嫌う仏門のため、この儀式が中止されました。すると、 その年から、イルカがパタリと来なくなりました。
漁師たちは寺に嘆願して、なんとかイルカ送りの儀式を復活させます。すると、この儀式の復活と同時に、 イルカは入り江に戻ってきました。
大正時代までは、そんなイルカ漁が行われていたそうですが、昭和に入るとイルカの姿は消えてしまったそうです。
イルカやクジラは、時おり、まるで集団自殺でもするかのように岸に自ら座礁することがありますが、 その原因ははっきりはつかめていません。寄生虫の影響で方向感覚が狂わせられるとか、シャチのような天敵に襲われてパニックを起こすとか、 あるいは海底地震の波動によって方向感覚が狂わせられるのだとかといった説があります。
能登のイルカが寄る海岸には、じつはもう一つ別な伝説があります。それは、ここに魔物が住んでいて、 それを白山を開山した泰澄大師が退治したというものです。
泰澄は能登島と能登半島の突端に魔物封じのための鉢を沈めて、これを退治したというのですが、それは「鉢ヶ﨑」、「八ヶ﨑」 という地名として残っています。じつは、その泰澄の魔物封じのポイントというのは、 能登半島西の気多大社から東の七尾へと横切る大断層とその先に伸びる断層のちょうど上に当たります。
もしかすると、海底を走る断層から発する電磁波がイルカの方向感覚を狂わせ、漁師や島人に「魔物」の幻覚を見せたのかもしれません。 そもそも、断層では地震が発生するわけですから、断層そのものが魔物ですね。
ところで、今回は、そのイルカ伝説にまつわる場所を巡った後に、立山近くまで足を伸ばして、 雄山神社やそのご神体とされる尖山を訪ね、さらに立山博物館を見学してきました。
**立山信仰の中心、雄山神社と、ご神体とされる尖山。 尖山は古代ピラミッドではないかという話もある**
富士山、白山と並んで日本三大霊場に数えられる立山は、「立山信仰」で知られています。地獄と天国を描いた「立山曼荼羅」を携えた 「御師(おし)」と呼ばれる人たちが、全国各地を行脚して、そのま宗教観を伝え、信者を集めて、夏には登拝を行いました。
**ちょうど北海道で竜巻が荒れ狂った翌日。 快晴の秋空に立山連峰が全景を現した**
今でも立山博物館には御師たちが布教のために使った極彩色の立山曼荼羅がありますが、これはほんとうに見事で、 目のくらむような世界観が展開しています。
**今回の取材コース。能登空港でレンタカーを借りて、能登半島を巡り、立山に回って、富山空港から帰京。 今回はプリウスを借りたが、全行程460kmで使ったガソリンは17L。 リッター27kmの燃費はさすが!!**
すずさん、コメントありがとうございます。
立山連峰は、ほんとうに壮観ですね。この景色が見られるのと見られないのでは、まさに旅の満足度が格段に違います。
この日は、一日中、霞むこともなく、見事な夕焼けも拝めました。
これからは、いよいよ寒ブリの季節ですね!!
投稿情報: uchida | 2006/11/15 21:11
すず神社僕も昨年訪れました。名前が気になりましたので・・・(笑)
立山の綺麗な姿を見られたのですね。いい日になって良かった。富山に来たらやはりこの立山連峰の景色が何よりの御馳走ですからね(^^)
投稿情報: すず | 2006/11/15 17:26