夏の取材ラッシュが終われば一心地つけるかと思っていたが、秋に入ると今度は紙メディアの仕事が立て込んできて、さらにはサーバのトラブル復旧やら、前々から計画していた旅行をこなさなければならなかったりと、このコラムのページを更新する機会がなかなか持てなくなっていた。
ブログツールを使えばブラウザで開いて書き込みするだけなので気楽に近況を更新できるが、ぼくはどうもブログというメディアは好きになれない。
というのは、ふつうに手書きで日記を記すように扱える手軽さはいいのだが、そのせいで、WEB上で公開されるメディアであることを忘れて迂闊なことをそのまま発信してしまいそうな気がするからだ。
つい数週間前のことだが、面識のある元編集者が自身で公開しているブログに悪口雑言やら実名でトラブルのあった相手を記してしまい、それが2チャンネルを中心にして騒ぎとなって、ついにはブログが閉鎖されたのはおろか職も事務所も失い、自宅も嫌がらせが相次いで住んでいられなくなってしまうという事件があった。
彼はあわててブログの内容を削除したのだが、今はGOOGLEのキャッシュには残ってしまうし、このブログを問題視した人たちが独自にキャッシュしたものを公開したりして、今でも公に晒され続けている。
このケースでは、WEBのポテンシャルをまったく理解していなかった当の本人にその責任がある。
今やWEBは情報の伝達という点では、他のメディアを遥かに凌駕している。そんな認識がまるでなく、WEBの影響力に疎すぎた。
紙メディアの人間はWEBの草創期の「オタクの世界」というイメージをいまだに持ち続けている人が多い。
そういう人たちでもブログなら簡単に手を出せるので、自分が見下している世界に入って、ついつい彼のような間違いを起こしがちだ。
WEBは情報発信という点で大メディアだろうが個人だろうが公平なシステムの上に成り立っている。そこを「自分は一般人とは違うメディア人だ」と勘違いして情報発信すれば、ブーイングの嵐に巻き込まれるのは当然だ。
WEBコミュニティはオープンで平等が基本だから、メディア人としての優越感を滲ませたような彼の表現は、そこに書かれているほどの悪気はないとわかっていても鼻につくようなものだった。
昔、ある電気メーカーのクレーム処理担当者の受け答えが音声ファイルで公開されて、会社が存亡の危機に立たされた事件があったが、今回の事件ではあの一件を思い出した。
個人情報の保護といいながら、一方ではブログで自分の趣味趣向や性癖まで開け広げてしまう人たちが氾濫している。今回の事件の彼のブログもまさにその代表例のようなものだった。
人と面と向かって話をするときに、心に浮かんだ印象や雑念をそのままダイレクトに言葉にしてしまう人は滅多にいない。ほとんどの人は、話す相手の気持ちを忖度したり、気分を損ねないように言葉を選んで話すはずだ。
ところが、ブログはむき出しの感情や取り止めのない印象を排泄するような言葉の羅列があまりにも多い。そういったものは、たまたま目にしてしまったこちらの後味も悪い。
そんな様子を見るにつけ、ますますブログという安易なツールに手を出すのは危険だという思いが強くなってきてしまう。 結局、ぼくという人間は根が迂闊であるから、ある程度手間が掛かって、客観視できるような媒体がいいというだけなのだが……それにしても、WEBにアップロードするということは、世間に晒される前に必ず幾人かの目に触れて校正される紙メディアよりも、遥かに安易なプロセスなのだが。
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