**今回を含めて、白馬の巨木たちはGPSに位置をインプット。これで、 わかりづらい場所にある木にも会いに行けるし、GPSで巨木を巡るツアーも実現できる**
先週後半、信州の白馬で、巨木巡りツアーのための下見をしてきた。
昨年、白馬に伝わる「風切地蔵」の取材をして、その過程で、ここにたくさんの巨木があることを知って、 それを結ぶGPSのツアーを行ったら面白いのではないかと考えたのだ。
今回は、昨年巡った候補地に加えて新たに個性的な巨木がいくつかあるということで、 ペンションミーティアのオーナー福島さんに案内していただいて、それらを巡ってきた。
まずは、姫川を挟んで、白馬三山と対峙する絶好のロケーションにある野平の集落へ向かう。ここは、古い善光寺街道が通り、 その鬼無里との境に位置する柄山峠に風切地蔵があって、地元の人たちが、街道を復活させようと道を整備し、地蔵も大切にしている。
**姫川を挟んで、正面に白馬三山を拝む野平集落。晴れた日の景色は素晴らしい**
そもそも白馬の風切地蔵のことをこのコラムに書いて、それをたまたま読んでくださった、 ここ野平の下川さんから連絡をいただいたことが、ぼくが白馬と深く繋がることになったきっかけだった。今回の巨木の情報は、もちろん、 その下川さんからもいただいた。
野平の集落の中を「権現水」という湧水が流れている。集落の北縁、背後の山の斜面から流れ落ちる水は、冷たく、すっきりとしていて、 飲料水にも、野菜を洗ったりするのにも使われている。
まずは、この水を手に掬っていただいて、山へ入っていく。
**集落の外れに湧き出す「権現水」。夏は冷たく、 冬場はほのかに温かみが感じられる柔らかい湧水**
野平の集落を見守る神明社の脇を通り、杉林に分け入っていくと、足元はぬかるんで、 福島さんに用意してもらった長靴が足首のあたりまで泥に潜ってしまう。
このあたりは窪地になっていて、水はけが悪いため、湿地のような状態になっているのだが、桂の木は水気が好きなため、 こんなところに生育するのだという。
鬱蒼とした杉林は、一昨年の豪雪の際に倒された木がそのままにされていたりして、殺伐とした雰囲気に包まれている。
そんな中に、同じ場所で新生を繰り返して、ミズナラのように幹が密生した桂があった。
樹齢800年を越えるといわれるこの桂の木は、薄暗い中、あまり手入れもされていないため、どこか荒んで見えてしまう。 そんな様子を見て、福島さんは、幹にかかった枯れ枝などを取り払いはじめた。
この桂と杉林は、近く、地元の人たちが手入れする予定だという。
桂の木の周りを一巡してみると、地盤は軟弱で、泥に深々と足をとられてしまう。根回りで10mくらい、 いちばん高い幹で30mは越えていそうな木が、いくら根を張っているとはいえ、こんな軟弱な場所に立っていられるのは不思議な感じだ。
この木の傍らに立ち、じっと耳を澄ますと、どこからか微かな水音が聴こえてくる。足元に耳を持っていくと、その音が大きくなる。
ちょうど、この桂の木の根元に水が湧き出し、それが権現水の源になっているのだという。
明確な流れがあるわけではなく、ここから窪地の杉林の地面を湿らせ、その湿地から神明社の下の権現水に、 搾り出されるようにして水が湧き出しているようだ。滞留しているかに見える湿地の水が、地面に濾過されて湧き出すときには、 森の滋味あふれる澄明な水に生まれ変わっているのだから……自然のメカニズムは巧妙であり、不思議だ。
この林が再び手入れをされて、桂の木ももっと健康になれば、そこから生み出される水ももっと澄んで、集落の人たちの体も心も、 もっともっと健康的に潤してくれるだろう。
写真を撮り忘れてしまったが、桂の木を訪ねる途中で、福島さんが斜面に掘られた穴を指して、「この穴は、 集落で消費するための雑木の炭を焼いた跡なんですよ」と教えてくれた。
そう言われなければ、生木が倒れた根の痕跡と思うようなものだが、よく見れば、穴の側面は煤で黒くなっていて、 簡単な窯の跡だとわかる。
間伐したり、大風が吹いて倒れた木などを、日常使う炭にするために、集落に近いこの場所に簡単な窯を作って焼いたのだという。 貴重な現金収入となる「商品」の炭は、もっと山奥で、良木を見つけ、しっかりした窯で焼かれた。
自然の生態と、自分たちのニーズをうまく合わせて、合理的に暮らしていた昔の人たちは、 ほんとうに無駄なく暮らしていたのだとわかる。
ほんの些細なことだが、こうした昔の人たちの生活のスタイルや智慧をもう一度学びなおすことが、 今のぼくたちには切実に求められているような気がする。
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