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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.256
2023年2月16日号
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◆今回の内容
○「フェティッシュ=物神」を手がかりにして
・大地母神のシンボル
・アニマとアニムス
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「フェティッシュ=物神」を手がかりにして
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しばらく前に購入して積読状態だった柄谷行人の新刊『力と交換様式』を先日読み終えました。
1989年にソ連が崩壊した翌年、柄谷行人は『マルクスその可能性の中心』を発表しました。そこでは、ソ連崩壊によってマルクス主義も一緒に死んだのではなく、そもそもソ連という国はマルクスの思い描いた共産主義を実現していたわけではなく、まだまだマルクスの思想は未来を切り開いていく上で大きな可能性を持っていることを示しました。
さらに2015年に発表された『世界史の構造』では、資本論の読み方をそれまでの生産様式に焦点を当てたものから、交換様式に注目して見直すことで、マルクスの思想が資本主義を乗り越えて新しい贈与交換型の経済と、それが生み出す人々が平等である国家体制に移行するための指針となりうることを説きました。
そして、去年の10月に発表された『力と交換様式』は、前作を受け継いで、今の社会が抱える格差や差別、そして地球環境問題などを解決していく新しい贈与経済を基盤とした社会の実現が可能であることを示しました。
柄谷は、マルクスが元々注目していたにもかかわらず、マルクスの後を継いだ「マルクス主義者」たちが意図的に無視した、物や貨幣が持つフェティッシュ(物神)の力に焦点を定めます。マルクスがフェティッシュをある種の霊的なものとみなしていたことに再び光を当てることで、人が何故「国家」のような権力装置に対して、自らを投げ出すように服従するのか(それをヘゲモニーといいますが)を明らかにするものです。
「フェティッシュ」というと、今では、多くの人があまり気にしないようなニッチともいえるモノに異様にこだわるマニアックな嗜好のようにとらえられていますが、マルクスが用いたフェティッシュとは、「物神」とも訳されるように、人がそのモノに宿っているとみなす、もしくはそう思わされる霊的な特別な力のことです。
それが端的に現れているのは「貨幣」で、貨幣はモノとモノとの間に介在する記号にしかすぎないはずなのに、その記号自体に価値があるように感じられる。この、貨幣自体に価値があるように感じさせているのがまさにフェティッシュ(物神)であるわけです。
日本には、古くから「付喪神」という考え方があります。モノはただの物体なのではなく、固有の魂を持っているというアニミスティックな考え方です。藤枝静男の『田紳有楽』では、強欲な骨董商が安物の陶磁器を古くて価値があるもののように見せようとして、古池の泥の中に沈めておきますが、その沈められた陶磁器に付喪神が憑いて、語り出します。
オカルティックな話としては、マリー・アントワネットがいつも指にはめていた指輪が、それを手に入れた者たちに、次々に不幸をもたらしたとか、ジェームズ・ディーンが乗車中に事故死しした愛車のポルシェを手に入れたコレクターが次々に亡くなっていったなどという話がありますが、とくに人が愛着を持っていたものに魂が宿るといった逸話は、古今東西にたくさんあります。
マルクスが言うフェティッシュも、まさにそうしたモノに宿る「霊的」な力のことを指しています。そして、中でもいちばん強力なフェティッシュは貨幣に宿っていて、だからこそ、人は貨幣に振り回され、それを蓄えることを目的にしてしまうというのです。
マルクスの思想を受け継いだ「マルクス主義者」たちは、マルクス主義をあくまでも唯物史観にのっとった「社会科学」として成立させようとしていました。その思想体系の中に、アニミスティックともオカルティックともとれるフェティッシュという概念が入り込んでしまっては、そもそもの理論が成り立たなくなると恐れて、これを真っ先に排除してしまったのです。
そして、マルクス主義を「生産様式」という側面だけに絞って解釈し、人民に平等に分配できるだけのものを計画的に生産して配れば、おのずと平和で平等な社会ができると説いたのです。
しかし、人間はそんな機械的合理性だけで動いているわけでも、動機づけられているわけでもなく、モノを価値という概念に結びつけて、その価値を集めるようになったり、価値あるものを手に入れるという動機のもとに労働するというほうが現実なのです。そうした、人間の感情や動機に結びつく「価値」を生み出す力こそが、フェテッシュ=物神だと、マルクスは言っていたのです。
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