ツーリングマップルの取材も終盤に差し掛かった。
昨日は雨上がりの朝に敦賀を出発して、小浜へ。その途中、稲穂が垂れる田に囲まれた梅街道を走っていて、風景に胸を打たれた。
まだどんよりと雨雲が垂れ込めて、ぐるりを取り囲む山々には、中腹にまで雲が掛かり、ゆっくりとたなびいている。とくに目を引いたり、劇的な風景ではなく、どこにでもあるような農村の風景なのだけれど、そのバランスというか、なんでもなさの具合が絶妙で、一瞬にして自分もこの風景の一部と化し、その心地良さに、突然涙が溢れてきたのだ。
私の故郷も、この若狭と同じ、海と湖に囲まれた水郷だが、山はなく、広大な平原が続いている。そして、海は荒々しく、稲穂を垂れる田の代わりに、巨大な規模の芋畑が続いている。そんな、今暮らしている故郷の景色を思い出したからこそ、この若狭の景色、その気候風土の奇跡的な穏やかさが、心に染みたのだと思う。
そして、御食国と呼ばれるのは、日本神話でアマテラスの食物を掌る神の出どころという以上に、この風景が生み出す食物の優しさを指しているのだと気づいた。
小浜から舞鶴に抜け、ちょっとだけ自分の守備範囲を越えて、丹後の新井崎神社に詣でた。ここは、徐福の上陸地という伝承が残り、周囲には浦島太郎伝説もある。丹後半島の突端に近いここは、どこか、大陸的なエキゾチズムも感じさせ、徐福伝説に、風景がピッタリと馴染む。
丹後から、また若狭に戻り、水月湖の辺りの馴染みの宿にまた世話になった。夜は、目の前の水面に映る月を愛で、朝は、辺りで夜明けを迎えた。
「なんだろう、この穏やかさは」。そんな言葉が、温かな嘆息混じりに思わず出た。
まだ秋の色は薄く、どこか夏の残滓が色合いに残っているけれど、風は秋そのもの。華やかな色彩に彩られる直前の、この時期が、私はいちばん好きかもしれない。
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