「巨木信仰」は、単純に考えると山の民の崇拝対象のように思えるが、じつはその信仰主体は海洋民だ。
巨木を見つけ、あるいは何代もかけて見守って巨木を育て、これを用材として船を作る。その船で、黒潮に乗って遥かな旅の後、日本列島にたどり着いた。
巨木を見上げた海洋民の子孫たちは、それを見上げて遠い海の彼方のルーツと、血に刻まれた航海の記憶を刺激されたのだろう。先日紹介した「龍燈伝説」が、蛍火が海から川を遡って山の巨木に灯る光景は、海洋民の祖霊とそれが辿ってきた道筋がこの現象とだぶることで、ことさらその神秘性がクローズアップされたものとも考えられる。
海と川と山が繋がり、それが民族としての記憶にしっかりと刻まれている。日本人の自然観が繊細なのは、そうした海洋民としてのルーツに秘密があるのかもしれない。
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