昨日からロサンゼルス始まったE3(Electronic Entertainment Expo)で、鈴木裕氏が長らく続編が出ていなかった「シェンムー」というゲームタイトルの続編をクラウドファンディングで資金を集めてリリースすると発表した。
キックスターターでの目標額200万ドルをなんと半日で突破。今はちょうど丸一日経ったところだが、もうすぐ300万ドルに達しようとしている。
じつは、このシェンムーというゲームに、ぼくも深い関わりを持っている。
鈴木裕さんとは、彼が「ハングオン」という体感シミュレーションバイクゲームを開発したときに、二輪雑誌の取材で知り合ってから、もう30年近い付き合いになる。ハングオンの後、体感シミュレーションのヒット作を次々とリリースし、さらに「バーチャファイターシリーズ」という3DCGを初めて本格的に取り入れた格闘ゲームで一世を風靡し、彼は、世界指折りのゲームクリエイターに上り詰めた。
90年代の初め、バーチャファイターが凄まじいブームを巻き起こしていた頃、彼から唐突に電話があった。バーチャファイター2の制作に入っているのだが、キャラクターの動きや物語の背景をリアルにするために、本場中国のカンフー取材に同行してくれないかということだった。
2週間あまり、彼とぼくの二人で中国各地を巡り、彼がこだわる達人たちを取材した。北京から内陸部の洛陽、西安、さらにまた渤海湾沿岸の滄州と、広い大陸を2週間。長距離列車を乗継ぎ、1万kmは楽に越えただろう。
少林寺では、巨大な武術学校の若いホープが広い体育館を静かに圧する演武に圧倒され、滄州では鈴木氏が何としても会いたいと願っていた、八極拳の正統伝承者である呉連枝老師を訪問し、弟子の演武を見学させてもらった。さらに、鈴木氏が本物の八極拳を体感したいと、老師に手合わせを頼むと、寸止めしたはずの軽い正拳が鈴木氏の胸に触り、それだけて肋骨にひびか入るといったハプニングもあった。八極拳の奥義をまさに体感できた鈴木氏は、痛みも忘れて喜んでいたが。
呉連枝老師は、その後、鈴木氏に招かれて日本にやってきて、彼のモーションがゲームのキャラクターに取り入れられた。
カンフーの達人たちを訪ねる合間には、北京の紫禁城や少林寺の佇まい、さらには裏町の風景を微に入り細に入り写真に収めて、これをゲームの場面に採用した。
当時の3DCGの表現力の限界まで使ってリアリティを追求したバーチャファイター2も空前のヒットとなった。
長い中国取材の間、鈴木氏と白酒を傾けながら夜更けまで語り合った。ぼくはゲームの世界には疎かったが、これからはコンピュータの性能が飛躍的に上がって、ゲームはより精細で自然な動きが実現でき、それにともなって現実の物語と感じさせるようなリアリティが要求されるようになるという話はよく理解できた。
そのとき、すでに、彼は高いリアリティを感じさせる…後のシェンムーに繋がる…ゲームのイメージをかなり明確に持っていたのだろう。門外漢のぼくにその時点で説明してもわかるはずはないから、具体的なことは言わなかったが、中国取材で得た感触に大きな自信を持って、ゲームコンテンツの次のステージを見据えていることを目が語っていた。
中国取材の顛末は、当時鈴木氏の下で広報責任者をされていた黒川文雄さんのアレンジで、ゲーム雑誌に連載することになった。鈴木氏のほうは、帰国すると猛烈に忙しくなり、それからしばらくは顔を合わせることもなくなった。
ゲーム雑誌での連載も終わり、ゲーム業界との付き合いも完全に切れて、ぼくは、当時の本業だったアウトドアやモータースポーツを中心としたライター稼業に戻った。
そして、時折、鈴木氏との中国取材旅を懐かしく思い出していたある日、また、唐突に彼から電話をもらった。
それが、シェンムー開発プロジェクトへの誘いだった。
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今回は、思い出深いシェンムーの待望の続編が開発されることになって、うれしくて書き始めたのだが、前段でずいぶん長くなり、肝心のシェンムー開発の話まで入れなかった(笑)
続きは、また後日、時間をみつけて記したいと思う。
シェンムー3のクラウドファンディングの数字は、その後もどんどん伸びている。こんなにも多くの人たちが、このタイトルの続編を心待ちにしていたことがわかり、このプロジェクトに関わった一員として、とても誇らしく思う。
https://www.kickstarter.com/projects/ysnet/shenmue-3
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