レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.66 2015年3月19日号
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◆今回の内容
1 キリスト教神秘主義の暗号
キリスト教神秘主義
聖杯
ツール・ド・フランス
サンティアゴ・デ・コンポステーラ
テンプル騎士団
2 お知らせ
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キリスト教神秘主義の暗号
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かつてWIRED誌の編集長を務めたケビン・ケリーが著した『テクニウム』を読んでいます。
人類がこの世に登場してからの長い歴史の中で、デジタルテクノロジーを獲得したこの数十年あまりのテクノロジーの進化が、過去数十万年の進化を遥かに上回るスピードで進行していることに焦点を当て、テクノロジーが人智を越えた独自の進化の段階に達したことをケリーは本書で示唆しています。そして、テクノロジーがコアとなってさらに進化していく世界を「テクニウム」と呼んでいます。
「このテクニウムには、17京個のコンピュータ素子が相互につながれて、ひとつの巨大な規模の計算プラットフォームを形成している。この世界的なネットワークの中のトランジスターの数は、ほぼ人間の脳の中のニューロンの数に匹敵する。そしてこのネットワークの中のファイルの相互のリンクの数は、脳内のシナプスのリンク数とほぼ同じだけある。ということは、この惑星を埋め尽くす電子的な器官は、人間の脳の複雑さに匹敵するものになっているということだ。それには約30億個の人工的な目(電話やウェブカム)が接続されており、ほぼ毎秒1万4000回の周期で唸るようにキーワード検索を行い、あまりに大きな仕掛けとなってしまったため、世界の電力の 5パーセントをも消費している。……中略……テクニウムのコミュニケーションのうちのすべてが人間の作ったノードから生じているではなく、システム自体からも生じていることになる。テクニウムは自らに向かって囁いているのだ」
地球上を覆うテクニウムのネットワークが人間の脳と同じ複雑さを獲得した今、あたかもテクニウム自体に意識が生まれたのではないかとケリーは言うのです。
安定して不動に見えるものが、ある閾値に達した瞬間に大きく変化することは、自然界ではよくあることです。砂粒をゆっくりと落としていくと、徐々に堆積して砂山ができあがり、あるところまでは綺麗な円錐形を成していきますが、閾値を越えて一つの砂粒が落ちた途端、綺麗な円錐は根底から崩壊します。巨大地震や火山噴火、雪崩なども、ある段階まではほとんど変化がなく、閾値を越えた瞬間にカタストロフに至ります。伝染病のパンデミックもしかり、安定しているように見えた株式市場が崩壊するのも同様の現象です。猿人が道具を使い始めたり、二足歩行を始めて、原人へと進化のステージを登ったときも、安定状態から突如変化したと考えられてい ます。
21世紀の現在に生きる私たちは、デジタルネットワークが自己の意志を持った有機体=テクニウムへと進化する瞬間に立ち会っているのかもしれません。だとすれば、これからの聖地学は、テクニウムにとっての「聖性」やデジタルネットワークの中に生まれる聖地をも意識していく必要が出てくるでしょう。それは、とても刺激的なテーマです。
ずいぶん、前置きが長くなりました。『テクニウム』はとても刺激的な示唆に富んだ話がまだまだたくさん出てきますので、流行りのトマ・ピケティの新資本論などと合わせて読んでみてください。
さて本題です。
【キリスト教神秘主義】
前回は、漢字の読みに隠された暗号やシンボルの意味を読み解いて、それが聖地の性質を物語っていたり、儀式の本質を伝えていることを明らかにしました。今回は、そうした記号やシンボリズムの研究が古くから盛んなヨーロッパの例を取り上げて、シンボル学の面白さをご紹介したいと思います。
前回は、お水送り-お水取りの儀式が密教の呪術的な面が端的に現れたものであり、密教そのものが「仏教」というカテゴリーには収まりきらない様々な宗教のハイブリッドであることを証明しているということを説明しました。
密教同様、キリスト教も「異教」と呼ばれた古代の祭儀や秘教的な要素を消化しきれない矛盾として含んでいます。この講座でも、クリスマスがケルトや北欧の冬至祭を習合したものであることや、イースターの祭りがやはりケルトの古い祭りをルーツとするものであること、復活祭はフェニキアの愛と豊穣の女神アスタルテの祝祭をそのまま取り込んだものであったことなどを紹介しました。
そもそもキリスト教を生み出す母体となったユダヤ教が古代エジプトの宗教習慣を色濃く残すもので、ユダヤ神秘主義の根幹を形作るカバラ思想におけるセフィロトと呼ばれる10の階梯は、古代エジプトのファラオの10の特性に対応したものでした。
ユダヤの始祖アブラハムに関する『創世記』の中の記述には、アブラハムが異母妹との近親婚をしていることが記されていますが、これはアブラハムの出自が古代エジプトの王族であることを示しています。
キリスト教は、325年にコンスタンティヌス帝が招集したニケーア公会議で、マリアの処女懐胎や三位一体の考え方が採択され、それまであった様々な異論は「異端」とされました。日本でいえば、天武帝が『日本書紀』を「正史」として編んで、異説をすべて排除したのに相当する思想・歴史統制でした。
そのような中で、グノーシス派やカタリ派、秘密結社の代表のように取り上げられるテンプル騎士団など秘教的な傾向が強いセクトは弾圧され、地下運動を展開していくようになります。
そうした地下に潜行したキリスト教神秘主義セクトの残した記号やシンボルを読み解いていくことで、古代の秘教を探り当てようとするムーブメントがシンボル学として発達していきます。
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