元三嶋神社(白濱神社)の浜鳥居。本来は沖に浮かぶ伊豆大島のほうを向いていたはずが、元旦の正月の日の出の方向に変えられてしまっている
昨日は伊豆半島の東海岸を伊豆高原から下田まで南下しながら、伊豆ならではの聖地を巡った。
今回は伊豆急行肝いりの視察で、現地に詳しい社員の方々や郷土史家の案内を受けながら、個々の土地の歴史と文化を掘り下げて、さらにレイラインハンティングの手法を使って、方位や立地する土地の地理的バックボーンを調べて、その場所の本来の意味や来歴を調べていった。
今まで、伊豆といえば二輪のインプレッションでターンパイクや伊豆スカイラインを走ったり、西伊豆でシーカヤックを漕いだことは何度もあるが、東伊豆のほうはほとんど馴染みがなかった。だが、事前に色々調べてみたり、気になる場所を調べてみると、どんどん面白いことが見えてくる。
まず、伊豆の語源が面白い。「伊豆」は「出ず」に通じ、これは『伊豆の国焼』という神話がベースになっている。富士火山帯に属する伊豆は、海底噴火でできた島がプレートに乗って東から西へと進み、本州にぶつかって半島となったが、『伊豆の国焼』では、富士の大神が太平洋を見渡して、少し殺風景なので「ここに土地を焼き出そう」と思いついて、海底に手を入れ、そこから地面の元になる焼けた岩を引き出して半島にしたとある。いつの時代に造られた神話かは定かではないけれど、地学的な成り立ちをそのまま反映したストーリーになっているのが面白い。
さらに、この神話は、天竺から来た皇子が百済から来た仙人とその三人の子供に協力させて伊豆諸島を順番に作り出すというストーリーになっている。天竺や百済からやってきたという話には、伊豆半島が海を伝ってやってきた渡来民が多く住んだことと対応している。それはまた「来宮」という漂着神信仰にも現れている。さらに、伊豆諸島と半島は交易で密接に結びついていて、半島側の入江毎にある神社がそれぞれ特定の島を向いていて、その島の神を勧請したものと伝えられている。
そうした神話や地誌を当たって、東伊豆の主要なポイントを地図にプロットして、さらに、磁気異常や重力異常、活断層などの地学的なデータと照合してみると、神話や地誌に登場する神社や聖地が、ホットスポットと符合していて驚かされる。大地から力が「出ずる」土地のとくにその力が強い場所が聖地とされていたのだから。しかも、そこをよく調べてみると、周囲に縄文時代の集落の跡があり、聖地そのものはその頃の祭祀遺跡の上に新たに神社や寺が創建されている。地理学的な見地に符合した神話を作り出した人たちがいて、さらに太古には聖地を見分ける感覚を身につけた縄文人たちがいた。そうした「聖地感覚」ともいえるようなものが、どうして失われてしまったのだろう。
今回の視察は、レイラインハンティングを地域振興に活かすために、まずはどんな風に土地を調べるのか、どこか典型的な場所を案内してほしいという要望が最初にあり、自分にとって馴染みの深い東国三社か江ノ島でもと思っていたが、事前調査で東伊豆の面白さに気づいてしまうと、ぶっつけ本番で現地を調べたくなった。そして、東伊豆での実地調査となった。
「地域振興」というと、どうもありきたりのひな形を地域の個性を無視して押し付けたり、流行りの「B級グルメ」などに便乗する場当たり的なものが多いような気がする。一方で、少ないながらも、地域に根ざした特性を生かして、独自の方向性を地道に追求している例もある。
レイラインハンティングというサイトを開いて13年、著作を出したり、トークライブや講座を開いたり、いろいろやったきたけれど、今までは地域にこれを活かしたいといった場合に、即席に「パワースポット」を見つけてくださいなどといった安易な依頼が多かった。そんなチョチョイノチョイで、特別な場所が見つかるわけがないし、そんなことで例え見つかったとしても、B級グルメよろしく一時的に人が押し寄せるだけで、ブームが去ったら荒廃した場所が残るだけだ。
あいかわらず、そういった安易な問い合わせもあるけれど、最近は、今回の伊豆急の件も含めて、長いスパンで地域振興を育てていこうという観点から、その手始めとしての調査手法にレイラインハンティングを活用したいという話が増えてきた。こういったことなら、大歓迎だ。
ぼくは、地域振興や村おこしを語り始める前に、まずは土地の特性を良く知ることが大切だと思う。その土地独自の環境や文化から出発しなければ、B級グルメやパワースポットいった軽薄な商材に堕してしまう。土地を知ることから出発すれば、土地そのものが、どうすればいいかを教えてくれる。まず、先人たちが残してくれた様々なヒントを吟味すること、「土地おこし」から始めなければならない。
18世紀の詩人アレキサンダー・ポープは、『アーリントン卿への書簡』の中で、次のように記している。
すべてにおいて、その場所のゲニウスに相談せよ
それは、水を昇らせるべきか落とすべきかを告げてくれる
岡が意気揚々と天高く聳えるのを助けるべきか
谷を掘って丸い劇場にすべきかを教えてくれる
土地に呼びかけ、森の中の開けた空き地を捕まえ
楽しげな木々に加わり、木陰から木陰へと移り
意図したラインを切ったり、方向を変えたりする
あなたが植えたとおりに塗り、あなたが作ったとおりにデザインしてくれる。
(徳永英明訳)
ゲニウス・ロキ(地霊)に問いかけること、それこそが、まさに「土地おこし」といえるだろう。
伊豆の土地から「出ず」る力の強さを感じさせる河津来宮神社の大楠。伊豆には巨樹の他に、特産の伊豆石のように、造山活動の強さを示すモノが多い
冬至の入日の方角を指す元三嶋神社の参道。背後には古代の祭祀場があり、もともと太陽信仰の聖地だったことを物語る
**伊豆の取材に関しては、「聖地学講座」の3月21日配信号にて詳述します
http://www.mag2.com/m/0001549333.html
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