夜、仕事から戻ってくると、アパートの玄関の前にクワガタが仰向けになってもがいていた。つまんで俯きに戻してやっても、 だいぶ弱ってしまったらしく、力なくもがくばかりで前進していかない。一瞬、虫かごにでも入れて飼ってやろうかとも思ったが、 そのまま置いておくことにした。
明日は、鳥にでも食べられてしまうかもしれない。
子供の頃、クワガタもカブトムシもありふれたものだった。カブトムシは、角に凧糸を結びつけて振り回すと、 そのまま羽根をブンブンいわせてグルグルとまわり。近所の悪ガキたちと、その周回を競った。それから、 やはり角に括り付けた凧糸の端にマッチの箱を結びつけて、何個まで引きずることができるかといったことも競った。
クワガタは、そうした「遊び」の対象というよりは、当時から「鑑賞用」だったように記憶している……どうも、 クワガタで具体的にどんな遊びをしたのか思い出せない。
それはともかく、カブトムシもクワガタも、40年前の田舎ではまったく珍しいものではなかった。子供たちは、それぞれ、 カブトムシやクワガタが付く秘蔵のクヌギを林の中に持っていたし、わざわざ林にまで遠征しなくても、 庭の柿の木に夜のうちに砂糖水を垂らしておくと、4、5匹は必ず木の幹に吸い付いていたものだった。それらは、「珍しい昆虫」というよりも、 「森や林のありふれた『産物』であり、田舎の子供たちにとって、夏の定番の『遊び道具』だった。
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