風景はまだ夏の面影を残していても、空の色と雲、光の柔らかさ、そして吹き渡る風は、もうすっかり秋のものだ。
夜のキャンプサイトには他に人の姿はなく、虫の声を聴きながら月を眺めていると、何故か無性に人恋しくなってくる。
前回も月のことに触れたが、月を前にした透明な孤独感が心地良く感じたあの時と違って、同じ孤独感がもの寂しさを誘う。
「月へひとりの戸は開けておく」……ふと、山頭火のそんな句を思い出し、山頭火はやりきれない無常感から旅の人となったけれど、 句を詠むことで、しっかりと孤独感と向き合いながらそれを静かに受け入れていたんだなと気づかされる。そして、 自分もこんな時に気の利いた句が詠めたら静かに満足して眠りにつけるだろうにと残念になる。
山を下りて、狭い里道を辿っていると、道祖神があった。一月前にも、同じように道祖神と出会ったが、 そのときは周囲の夏の気配に圧倒されて、風景の中で小さく縮こまって見えた。ところが、秋の道祖神は風景の主役といわんばかりに、 前に飛び出して、気持ちが弾んでいるように見える。
思わず立ち止まって手を合わせると、仲睦まじく肩を寄せ合った男女神が、一人旅の寂しさを慰めてくれた。
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