□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.65
2015年3月5日号
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今回の内容
1 聖地にまつわる暗号
二羽の鵜=丹生
聖地にまつわる暗号
2 お知らせ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
聖地の暗号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【二羽の鵜=丹生】
この3月2日は、春の恒例となった「若狭お水送りと不老不死伝説ツアー」を開催しました。前日の深夜まで降っていた冷たい雨は、当日の朝には上がり、夕方の神事の始まりの頃には雲間から月と星が顔を覗かせました。
今年は平日とあって、境内がすし詰め状態だった昨年や一昨年よりもだいぶ人出が控えめで、総勢は2000人くらいだったでしょうか。ちょうど私が10年前に初めてこのお祭りに参加した頃の人数で、北陸の山里の風物誌らしい落ち着いた雰囲気の中で神事が執り行われました。
私が案内したツアーは13人で、こちらは昨年と同じ人数で、みなさん初参加。幻想的な松明行列に感動されていました。その中の一人、奈良からみえたKさんが、お水送りとお水取りの神事にまつわる興味深い説を話してくれました。
Kさんは、奈良出身とあって、お水取りには馴染みが深いのですが、昔からそのお水取りの由来について、ある疑問があったというのです。その疑問とは、送水神事のきっかけとなった「鵜」が二羽登場するいうことでした。
東大寺二月堂のお水取り縁起は、次のように記されています。
「実忠和尚二七ヶ日夜の行法の間、来臨影向の諸神一万三千七百余座、その名をしるして神名帳を定(さだめ)しに、若狭国(わかさのくに)に遠敷(おにう)明神と云う神います。遠敷河を領して魚を取りて遅参す。神、是をなげきいたみて、其をこたりに、道場のほとりに香水を出して奉るべきよしを、懇(ねんごろに)に和尚にしめし給ひしかば、黒白二の鵜(う)、にはかに岩の中より飛出(とびいで)て、かたはらの樹にゐる。その二羽の跡より、いみじくたぐひなき甘泉わき出(いで)たり。石をたたみて閼伽井とす」
東大寺初代別当良弁の補佐役である実忠が、神々を招いて行った修二会に、若狭の神である遠敷明神が、魚取りをしていて遅刻してしまいました。これに恥じ入った遠敷明神は修二会の道場の側に香水(聖水)を湧き出させて詫びることにします。そして、実忠和尚にその場所を示すと、そこからは黒白二羽の鵜が岩の中から飛び出し、傍らの木に止まりました。鵜が飛び出した岩の跡からは、甘い泉が湧き出しました。この岩を囲んで閼伽井としたといった内容です。
Kさんが疑問に思ったのは、遠敷明神が呼び寄せた鵜が、何故一羽でなくて黒と白の二羽だったのかということでした。
たしかに、そう言われれば、一羽でなく二羽である理由があるのではないかと思えます。また、「遠敷」もこの文字をただ示されて「おにゅう」と読める人はいないはずです。「遠敷」の読みの謎は、私もずっと疑問でした。
Kさんは、鵜が二羽であることの意味を、ある日突然思いつきました。それは、「二羽の鵜」=「二鵜」=「丹生」ではないかということでした。
お水送りとお水取りという二つがセットになった祭りは、若狭に産する水銀を奈良に送るという意味を象徴しています。水銀が煉丹術における不老不死の妙薬の重要な原料であり、また金を精製するために欠かせない物質であることは、以前ご説明しましたが、「香水」とはその水銀が溶け込んだ水のことなのです。水銀を産する場所は丹生(にゅう)と呼ばれます。二鵜は丹生を暗示し、香水が不老不死の妙薬であることを示唆していたわけです。
西洋の錬金術では、重要なアイテムを指す際に、アルファベットを並べ替えるアナグラムを頻繁に使います。同様に、東洋では丹生を二鵜と表記するような、言葉遊び的な暗号をよく用います。
Kさんのこの説を聞いて、まさに目から鱗が落ちたような気がしました。
二鵜はまた遠敷明神と送水神事が行われる遠敷川という場所にも掛けられています。遠敷は、奈良時代初期の木簡には「小丹生」と記されていて、「遠敷」の字が当てられたのは奈良時代の後期と考えられています。奈良時代後期といえば、お水取りの神事が創始された時期に符合します。
小丹生と遠敷は、字面だけ見ていてはまったく結びつきません。しかし、「遠」と「敷」に分解して考えると、そこに意味が見えてきます。
古代、王族や有力な豪族が埋葬される際には、石棺の底に辰砂を敷きつめました。辰砂は硫化水銀のことで、腐敗の防止と魔除けの意味がありました。朱色をした辰砂のその効能から、朱色にも同じ効能があると連想され、神社の装飾などにも用いられました。
遠敷の「敷」が石棺の底に敷き詰められた辰砂を指すとすれば、この一字を丹生と読み替えたといえます。「遠」は、その意味の通り遠くの場所。奈良から見て北方彼方にある若狭を指しているととれます。遠敷は、奈良のはるか遠方にある辰砂を敷き詰めたような場所、つまり良質な水銀を豊富に産する若狭を指していると解釈できるわけです。
Kさんのおかげで、私の長年の謎も解け、今年のお水送りツアーは自分にとっても実り多いものとなりました。
【聖地の暗号】
二羽の鵜が丹生を表すのと同様の暗号はたくさんあります。
コメント