炎の効能
思えば、もう長い間、炎に親しんできた。ソロツーリングの夜の小さなキャンドルライト、深山や河原での焚き火、山小屋の暖炉や薪ストーブの中で燃える炎……。
炎を前にすると、誰しも黙りこみ、炎の揺らめきの虜になったように、目が離せなくなる。炎をじっと見つめ続けると、踊り揺らめきながら形を変えていくその動きに心がシンクロして、様々なイメージが沸き上がり、消えていく。そして、見えているイメージの意味が次第に不明瞭になり、自分がどこにいるのか、何をしているのかが定かでない不思議な忘我の世界へと入っていく。
もう20年以上も昔、メキシコの砂漠で、一人ビバークしたことがあった。
二輪のオフロードレースのプレラン(下見走行)で方向を見失い、広い砂漠で完全に迷子になってしまった。レース本番ならコースマーカーはしっかりしているし(それでもミスコースは続出するが)、他の参加者も走っているし、オフィシャルのサポートカーがコース内を走っているが、プレランはまだコース整備前で他の参加者も広大な砂漠に散ってしまうので、ミスコースがそのまま遭難ということになってしまう。
よほど見当違いな方角にミスコースしてしまったらしく、他のプレランしている参加者も人家や道路が近くにある気配もまったくない。唯一の道標であるちっぽけなロードマップも、自分の居場所が見当つかなければ役に立たない。
砂漠は昼と夜で寒暖の差が激しい。昼間のうちに出発して夕方にはまだ間がある頃にサポートチームと合流する予定でスタートしたため、メッシュのシャツにプロテクターという軽装で、日が落ちて気温が急降下すると、それだけで低体温症の危険があった。
祈りの風景ダイジェスト版の掲載は終了しました。続きは下記電子書籍版『祈りの風景』にて
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