少し前の 話になるが、9月25日は中秋の名月だった。
旧暦の8月15日にあたるこの日は、ちょうど秋の真ん中で「中秋」。夏の残滓が消えて、冬へと向かう兆しが見え始め、風は涼しく、 虫の鳴き声も耳に心地よく、そして空気は澄み、冴え冴えとした月が空に輝く。
ススキの穂を景色に添えて、収穫された芋を供えた風習が「ダンゴ」に変わって、秋の収穫をダンゴを頬張りながら祝う。
じつは、中秋の名月は満月とは限らず、この日も、満月に二日足りない月だったが、それでも、この日の月は格別きれいだった。
その週は、ツーリングマップルの取材で、木曽から奥飛騨を巡り、その足で北軽井沢に廻って、 コールマンとのコラボレーションでも有名なキャンプフィールド「スウィートグラス」で月見を楽しんだ。
浅間山の麓に広がる草原に、オートキャンプサイト、フリーサイトをメインとして、様々なタイプのコテージやキャビン、さらに、 ネイティヴアメリカンの移動式住居「ティピ」を配置して、多彩なスタイルのキャンプ、フィールドライフが楽しめるようになっている。
今回は、バイクにテントも積んでいたのだが、たまには変わった風情もいいかと、ティピに泊まることにした。
スウィートグラスのティピは、内部がフローリングになっていて、5,6人は楽に泊まれるサイズ。中央には焚き火ベースがあって、 中で寛ぎながら焚き火も堪能できる。
まずは、そこで焚き火を起こして、鍋やフライパンを直接かざして、ワイルドかつ手軽に料理。そして、 東の空に中秋の名月が登ったところで表に出て、木製のベンチ&テーブルに腰掛けてダンゴをいただいた。本当は、ダンゴも自作して、 ススキも添えてと思っていたのだが、キャンプサイトに落ち着いたのが16時過ぎで、疲れていたということもあって、 近くのコンビニで買ったみたらしダンゴで済ませてしまった。
人工の光が溢れている都会では、月明かりを堪能することはなかなかできないが、草原の一角で、月明かりだけを頼りにダンゴを食べて、 ぼんやりと浮かび上がった景色を眺めていると、その蒼いモノトーンの世界が、この世ではないように思えてくる。
写真家石川賢治さんの「月光浴」という作品群があるが、まさに月光を浴びて、自分がその世界に居ると思うと、不思議な気がしてくる。 ……でも、考えれば、子供の頃、田舎の野山で時間を忘れて、夢中になって遊んでいると、いつのまにか日が暮れて、 月明かりの下をあわてて帰っていったことが何度もあった。街灯もないし、懐中電灯も持たず、月明かりに照らされた道はっきり見えていて、 「神隠しに遭うぞ」と脅されていた子供たちは、どんなに走ってもしっかり追いかけてくる月が怖くて、 泣きべそかきながら家路を急いだものだった。
そんな昔を思い出したりしながら、ひとしきり月光浴を楽しんだ後は、ティピの中で、小さな焚き火を守りながら、ぼんやり過ごす。
ネイティヴアメリカンの人たちも、こうしてティピの中で焚き火を眺めて夜を過ごしていたのかと想像すると、自然に、 彼らの気持ちにシンクロしていくような気がする。日本なら、きっと、自然と一体になって暮らしていた縄文人たちが、同じように、 焚き火を眺めて夜を過ごしていたのだろう。
小さな炎の揺らぎをただ眺めているだけで心が安らぐのは、そんな太古からDNAに刻み込まれてきた記憶のせいなのかもしれない……。
翌日は、気持ちよく晴れ上がった空の下、広大なスウィートグラスの敷地の中をのんびりと散策しながら巡った。ここは、 それぞれのコーナーのコンセプトがはっきりしているので、ソロでも、カップルでも、そしてグループやファミリーでも、 ニーズに合ったスペースがあって、気軽に楽しめるのがいい。
また、季節の節目に、のんびり過ごそうと思う。
**今回利用したティピは、広い草原の片隅に位置する。 中で焚き火ができるのがいい**
**広大な敷地の中に、様々なフィールドライフが楽しめるキャンプサイトやコテージが点在。 食材なども希望すれば用意してくれるので、気軽に楽しめる。詳細は、スウィートグラスのWEBサイトで**
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