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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.194
2020年7月16日号
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◆今回の内容
○新しい実在論と聖地・聖性
・聖性の感じ方
・身体性
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新しい実在論と聖地・聖性
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私自身も「聖地」という言葉を普通に使い、こうして聖地学講座なるメールマガジンを発行しているわけですが、そもそも聖地とは何なのかと問われると、単純明確に答えることは困難です。
聖地という「存在」や「現象」を多角的な視点から捉えようというのが、この講座のメインテーマで、「聖地とは何か」という究極的な問いの答えは、全体を通して、それぞれに読み取ってもらうしかありません…もしかすると、あるときヒョイとその答えが飛び出すかもしれませんが。ともあれ、漠然としたこの全体性の根底には、「実在性」の問題が横たわっているといえます。
去年から今年にかけて、NHKのBSチャンネルで『欲望の資本主義』や『欲望の時代の哲学2020』といった、現代社会を取り巻く哲学問題に取り組む番組が放映されました。その中でリポーターとして中心的な役割を担っていたのはマルクス・ガブリエルでした。
現代ヨーロッパを代表する哲学者であるマルクス・ガブリエルは、『なぜ世界は存在しないのか』という刺激的なタイトルの著書によって、新しい観点の実在論を展開しています。それは、一般的に「新しい実在論」と呼ばれています。
哲学にしろ宗教にしろ、そして神秘主義やスピリチュアルな思想にしろ、それらはあらゆる事物を包含する「世界」や「宇宙」というものを想定し、その中に含まれる「人」という対置関係の中で神性や人間性が語られてきました。それは形而上的な概念といえます。
また、カントやニーチェに始まる近代西洋哲学は、「神は死んだ」と宣言して観念的な「世界」や「宇宙」といった概念を否定し、哲学を人間主体にシフトさせます。さらに、それを引き継いだ構造主義やポストモダン思想は、あらゆる事象は人間の主観が生み出すものであって、幻にすぎず、重要なのは事象を繋ぐ関係性なのだとします(ちょっと乱暴なまとめ方ですが)。これは構築主義と呼ばれます。
マルクス・ガブリエルは、形而上的な世界は存在せず、個々の人間や集団が抱くイメージとしての「世界像」のみが存在していて、それが寄せ集まっているのが今私たちが生きている社会(リアルな世界)だとします。
『なぜ世界は存在しないのか』という著書のタイトルは、すべての事象を包含するとされる形而上的な世界が存在するとするならば、それを包含するさらに包括的な世界が存在しなければならないことを意味し、それが存在するとするならば、さらに包括的な世界…と無限連鎖に陥ってしまうので、結局、そうした世界は存在し得ないということを指しています。
「世界像」しか存在しないというガブリエルの論理は、一見、構築主義と同じに見えますが、構築主義が世界像そのものが人間の主観が生み出す幻に過ぎないと履き捨てるのに対して、ガブリエルは世界像そのものは存在するものとして位置づけるところに決定的な違いがあります。ここから、「新しい実在論」と言われるわけですが、彼は、そうした無数の世界像を突き合わせていくことで、社会を動かしていこう、進化させていこうと主張します。
こうした考え方は、近年、急速にあらゆる社会・人文科学の分野に広がっています。
そして、この新しい実在論は、「聖地」や聖地のバックボーンを成す「聖なるもの」について考える上でも有用です。
宗教にしろ神秘主義にしろ、古い実在論である形而上学を元に、大いなる存在や人間にとって不可知の神秘が存在するという前提を置いて、様々な神話や物語によって「聖性」を説明し、それによって信仰を生み出してきました。
これを新しい実在論から見ると、大いなる存在や人類共通の不可知の神秘といったものは存在せず、しかし、個々の人間が感じる「聖性」は存在するということになります。みんなで幻想の聖性を崇めるのではなく、個々の人間が、それぞれの聖性を感じ、その意味を考え、他者と突き合わせていけばいいということになります。
そうしたことによって、聖地や聖性の具体的な様相が明らかになっていくことが期待できるのです。
●聖性の感じ方●
ところで、「個々の人間が感じる聖性は存在する」という認識が、特段に新しいものに感じられない人も多いでしょう。
それは、東洋思想的世界、とくに日本では、もともと神や聖性といった概念が曖昧であり、それを漠然とした「何ものか」という形で受け入れてきたからです。
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