もうだいぶ以前から、日本人はどうして名水が好きなんだろうと考えてきた。
『聖地学講座』でも、水に関わる聖地や、水の恵みを象徴する十一面観世音や弁財天、空海をはじめとする高僧が発見したとされる霊水の伝説などを取り上げてきた。
そんなこともあって、各地を旅した時や、毎年のツーリングマップルの取材でも、意識して各地の水を味わってきた。それらの水は、それぞれに味わいが違い、その味から思い浮かんで来る景色も違う。
昔、シルクロードを旅した時、タクラマカン砂漠西端のインギシャールというオアシスでアイスキャンディーを食べて食当たりをしたことがあった。
このオアシスの周辺は水が強アルカリで、地元の人以外はその水に食当たりするから飲んではいけないと、オアシスに入る前から注意されていた。細菌とは違って加熱しても変わらないので、熱いお茶もダメだと。
だが、灼熱の砂漠を抜けてきて、オアシスの中の茶屋で一息つき、そこでアイスキャンディーを見つけたとき、その誘惑に勝てなかった。80年代半ばの当時、そんな洒落たものが、小さなオアシスにあるとも思えず、きっと大都市のウルムチから運ばれてきたのだろうと勝手な解釈をした。たとえ食中りしても、細菌じゃなければ、そんなにシリアスなことにもならないだろうという思いもどこかにあった。
ところが、そのアイスキャンディーに見事にあたり、下痢と嘔吐に加えて、内蔵すべてが捻り上げられるような痛みに苛まれることになってしまった。細菌性ではないので効く薬もなく、ただただ拷問のような痛みに耐えるしかなかった。
インギシャール周辺で生まれ育った人は、この水に慣れているので、食中りはしないものの、この水による風土病のため苦しんでいると聞いた。
世界中には、満足にきれいな水を飲めない人たちもたくさんいる。それに比べて、国土のあらゆるところで「名水」が湧き出す日本はどれほど恵まれているか…。シルクロードの旅から帰国した時、成田に降り立って真っ先に感じたのは「水の香り」だった。
ところが、最近、その日本の名水も汚れてきたり、かつての甘露を味わえなくなってきているという。たしかに、昔と水の味が変わったなと感じるところが何箇所か思い当たる。
日本の名水が不味くなっている原因の一つは、地球温暖化で降水量が多くなり、水害で水脈が変わって、他の水が流れ込んだり、地下への浸透が早くなって、十分に地層で濾過されなかったり、ミネラルが溶け込む時間がないままに流れ出してしまうからのようだ。
これからもずっと名水の湧き出す日本であるためにも、地球環境保全を考えていかなければいけないだろう。そして、日本から大きなうねりとなるようなアクションを起こしていかなければ。
名水の辺りのキャンプサイトで、夕暮れを眺めながら、つらつらとそんなことを思った。
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