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レイラインハンター内田一成の「聖地学講座」
vol.13 2013年1月3日号
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◆今週のメニュー
1 2013年のテーマなど
・チベット仏教の聖地ラダックへ
・明日香に呼ばれる
・TVシリーズ『LOST』の聖地
2 お知らせ
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2013年のテーマなど
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【チベット仏教の聖地ラダックへ】
明けましておめでとうございます。
2013年最初の聖地学講座の配信です。
みなさんは年末年始は、どう過ごされたでしょうか? 私はチベット仏教の資料を開いてメモなど取っているうちに、気づかないまま年が明けてしまいました。朔日の昼過ぎに近所の鎮守様へ参拝に行き、神楽の音を聞きながら手を合わせることで、ようやく新しい年を迎えた実感が湧きました。
この数年、世相は不穏で落ち着かない日が続いていましたが、今年は穏やかで安心して暮らせる一年になるといいですね。
さて、まだ三が日ですし、今回は、私の今年の聖地取材の予定や特に注目しているテーマなどを中心にご紹介しようと思います。
年明けにチベット仏教関係の資料を開いていたと書きましたが、これは、7月に訪ねることになったラダックがチベット仏教のメッカともいえるような地域で、現地ではチベット僧やシャーマンと会って取材する予定のため、今からチベット仏教についての理解を深めるための予習でした。
レイラインハンティングのフィールドワークでは、真言宗を開いた空海の痕跡と出会うことが多いのですが、空海によって開かれた日本の密教とチベット仏教は、じつは深い関係があります。空海が唐から戻り真言宗を完成させたのが9世紀の半ば、チベット仏教もニンマ派が現在に至る体系を築き上げたのがちょうど9世紀です。小乗(上部仏教)、大乗というそれまでの仏教が区分けしていた教義の壁を取り払い、金剛乗という新しい教義の元に整備された点も両者共通です。
紀元前4世紀に釈迦が仏教を開いてから1400年あまり後に開花したチベット仏教と密教は、ともに仏教だけでなくゾロアスター教の様式や土着の信仰(チベットではシャーマニズム、日本では神道や修験道)を取り入れ、呪術的要素が強いのが特徴で、教理解釈に陥り、僧がエリート化した顕教(それまでの仏教)に対して、庶民が修行を実践することによって、誰でも自ら解脱できるとともに菩薩となって衆生を救うメシアとなれるとしたのでした。
空海については、また稿を改めて詳しくご紹介しますが、彼は「場」が持つ力に注目し、人間の心身に特別な力をもたらす場所を選び出して、そこに寺を創建しました。ときには、高野山が丹生津姫信仰の聖地を奪い取ったように、別な信仰の聖地であったところを収奪する形で真言の寺を開くという強引な手段も使いましたが、それは、彼がいかに土地に秘められた力というものを重視していたかを物語っています。
チベット仏教でも同じように、土地の力というものを重視します。世界の屋根ヒマラヤを間近に拝むチベット高原は、湧き上がる大地の力はこれ以上ないといってもいいくらい強いはずです。そんな中でも、特に力の強い場所を選び出し、彼らは独自の聖地を築きました。そんな彼らの土地に対する「見立て」は、後に風水などにも多大な影響を与えます。
1949年、中華人民共和国は突如西方に侵略を開始し、ウイグルやカザフ、キルギスなどの中央アジアの民族を征服し、さらにチベット王国に侵攻して、自国領土とします。この時、ダライ・ラマをはじめとするチベット僧たちはヒマラヤを越えてネパールやインドに亡命します。ラダックはインド北部にあって、昔からチベット仏教の盛んな土地でしたが、この時に多くのチベット僧や難民が流入します。
ダライ・ラマはインド北部のダラムサラを本拠とするチベット亡命府を発足させますが、これは政治色の濃い行政団体であるのに対して、ラダックは古来からの独立性を保ち、チベット仏教の伝統を色濃く残しています。
1986年、私は、中国新疆ウイグル自治区のタクラマカン砂漠を周遊し、その後カシュガルからカラコルムハイウェイを西へと辿り、パミールに登りました。荒涼とした岩の大地の向こうに7000mを越えるカラコルム山脈が聳える光景を前にして、いつか、カラコルムのその先のヒマラヤへ行ってみたいと思いました。さらに、2007年に崑崙山脈を越えてチョモランマ(エベレストのチベット名)を遠望した時、その向こう、ヒマラヤの南側の世界から呼ばれているように感じました。2007年の時は、すでにレイラインハンティングのフィールドワークを積み、自分の中で、聖地と人間との関係についてのイメージがかなり固まっていましたので、1986年の時点ではまだ漠然とした未知の土地への憧れだったものが、ヒマラヤという極限的な自然環境とそれが生み出したチベット仏教を生で感じたいという具体的な願望となっていました。
それが、今年は叶うことになったのです。
空海は若い時に奈良の仏教界を飛び出し、修験の世界に身を投じて、険しい山岳で修行を続けました。そして、室戸岬の洞窟に篭り、わずかに開いた岩の窓から見える空と海に、広大な宇宙の広がりと、そこに同化できる人間存在の可能性に気づいたのでした。空海が空と海だけのミニマルな環境の中で、宇宙と人間との関係を直感したように、チベットは荒涼とした大地と天を突くヒマラヤの頂きという、やはりミニマルな構成要素の自然環境にあり、チベット仏教は、その中に生きる人たちが築いた宗教でした。
ラダックでは、5000mを越える峠を越え、数々の聖地を訪ね歩いて、さらに現地のラマ僧やシャーマンと交流することで、自分の「聖地」に対するイメージがより一層明確になると期待しています。
また、ラダック訪問の前後には、高野山を訪ね、日本の密教とチベット仏教との共通点についてもイメージを深めてみたいと思っています。
【明日香に呼ばれる】
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聖地学講座第13回より抜粋
http://www.mag2.com/m/0001549333.html
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