"天珠(てんじゅ)"と呼ばれる、中国文化圏で珍重される魔除けの石がある。
元々は、チベットの僧侶たちが身につけていて、それが庶民に広がり、交易の中で中国全土に広まったものだといわれる。 1994年の名古屋空港中華航空機墜落事故で、264人が死亡、7人が奇跡的に生存したが、 その生存者の一人が天珠を身につけていて無事だったことが台湾国内で報道され、それから魔除けとしてのブームが起こった。
魔除けの効果についてはなんとも言えないが、目を表す円によって魔をにらみ据えたり、 一筆書きのラインによって魔を封じ込めたりといった、いわゆる「類感魔術」の発想はプリミティヴな文化に共通するもので、 単純に迷信と片付けたくはない。
たまたま写真の左下にある古い天珠にシルクロードで出会い、今まで装身具などはいっさい身につけたことがなかったのだが、 これを左手に嵌めて、時々眺めると、そこに可愛らしい妖精か小人がいてこちらを観ているような気がして、ふと和みを感じる。人は、 どのようなものに安心感を持つのか、様々な意匠に何をイメージするのか、そういったことを理屈ではなくて、まさに中国4000年の歴史から、 経験的に学びとって、それを類型化し、そして形にしたものが天珠のようなものなのだろう。
中国文化圏では、玉=翡翠が珍重されるが、この天珠も翡翠に特殊な浸潤加工で文様が描かれている。翡翠はほどよく冷たい肌触りで、 邪魔にならない程度の装着感があって、それがなんとなく安心感に繋がる。子供が、気に入ったおもちゃを手放さない感覚に近いのかもしれない。
いろいろな場所を訪ね歩く過程で、こうしたほのぼのとしたものに出会うのも、なかなか楽しいものだ。
コメント