せめてお盆の迎えだけでもと、田舎に顔を出し、墓参りへ。
仕事部屋から溢れた本を実家に置いてあるのだが、久しぶりにその本棚を見回して、村上春樹『ノルウェイの森』を手に取る。
初期の頃のファンタジックな作品から、繊細な心理描写へと移り変わった頃のいちばん完成された作品だと思う。 フラジャイルなものにヒビが入り、それが時と共に広がってゆき、愛するものもなすすべなく、ついには崩壊してしまう。 それをファンタジーの頃からの一貫した『やるせなさ』を基調に綴っていく。
読後感は虚しく辛い。
でも、それは、人生の辛さを克服する術は、時間の流れによる希釈なのだと、無意識に伝えてくれていて、「今は辛くとも、 なんとか堪えよう」という気にさせてくれる…そういう心理が、決断を遅らせ、仇になることもあるのだが……。
しかし、最近読んで、食い足りなさを感じた『アフターダーク』などより、遙かに洗練されていて、 心に染みこんでくるものは遙かに濃い。
今にして思えば、村上春樹のもっとも魅力的な部分は『青さ』にあったような気がするが、それが熟年になって、 ある種の分別ができてしまったことでスポイルされてしまったのだろうか……。
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