今年最後の読書は『原発ジプシー』(堀江邦夫著 現代書館)。1979年に出版された同名の著作の改訂版で、今年5月31日に緊急出版されたものだ。
旧版はたしか浪人時代に中野の図書館で借りて読んだ。
ぼくの出身は茨城県中部の太平洋沿岸の町で、東海村や大洗の原子力研究所(「もんじゅ」の原型炉となった高速増殖実験炉の「常陽」がある)が近く、原発や関連施設で働く人間も多い。
昔から、原発にまつわる不穏な噂を聞いていたので、『原発ジプシー』の内容は、その噂を追認するもので、「やっぱりな」と感じたものだった。強いていえば、原発労働者専門の病院の実態や、核施設からの放射能漏れの実態はこの本では触れられていないので、続編でそのあたりも著者にフォローして欲しいと、当時感じた。
今、新版となって読み返してみると、旧版の後にスリーマイルがあり、チェルノブイリがあり、そしてJCOを経験しながら、それらの教訓は何も生かされないまま、フクシマに繋がってしまったことがよくわかる。
後書きの中で、堀江氏は最新のデータをいくつか紹介している。そのデータの一つ、原発での危険な「汚れ仕事」に従事して被曝した労働者は17万人を数えている。これは、ヒロシマ・ナガサキの被曝者とほぼ同じ数で、日本は自国民に対して新しいヒロシマ・ナガサキの試練を与えたに等しいと訴える。これは「公式カウント」の数字なので、旧版が著された頃の杜撰な人員管理で漏れた人数は含まれていないし、もちろん、311のフクシマが産み出した途方も無い被曝者の数はカウントされていない。
まともな情報は何も公表されず、労働者は単なる消耗品として取り扱われる。それを『原発ジプシー』は赤裸々にする。
まったく同じことを、福島や東日本の人間全てに対して行うこの国は、いったい誰のための国家なのだろう?
30年以上前に著された書物だが、初めて読む人には(新版として再読した自分もそうだったが)、今現在のリアルなレポートとして感じられるし、実際、何もこの30年で変わらないし、むしろ悪化しているといったほうがいい。
311の当日、ぼくはさいたま市の自宅にいた。そして、あの地震の揺れが収まった直後に友人の安否を確認するために車を走らせた。
いったい何が起こっているのか知りたくて、FMラジオを付けると、スタジオのDJと若い女性の電話での会話が流れてきた。
「今、福島の方と電話が繋がっています。…そちらは、どんな状況ですか?」とDJ。
「すごい渋滞です。私、主人に言われて、早く遠くへ逃げたいんですけど、なかなか先へ進めなくて。とにかく怖くて怖くて」と、電話の相手は緊張して上ずった声を上げている。
「逃げるって、津波からですか?」
「いえ、津波じゃなくて、原発から…。私の主人が原発に勤めているんですけど、もうここはダメだから、子供を連れて、なるべく早く原発から遠くへ逃げろって電話で言われたんです」
「原発? 原発で何かあったんですか?」と、状況を掴めないDJが質問したところで、通話は途切れてしまった。
この放送を聞いて、心臓が止まりそうになった。今、福島と言ったが、東海村はどうなのだろう? 福島の浜通りが地震や津波でやられて原発に被害が出たのなら、東海村でもあるいは大洗の原研でも何かあっておかしくはない…。
ぼくの実家は、東海村からは直線で20km以内、大洗の原研からは10kmも離れていない。どちらかが被害を受けて放射能漏れを起こしたらひとたまりもない。
なかなか繋がらない携帯電話を何十回となく試すうちに、ようやく母と連絡がとれた。地震被害が大きく、ライフラインも寸断されて、現地のほうが情報が少ないとのことだったが、やはり東海村の原発に勤める人の家族や友人には、「一刻も早く南か西へ逃げるように」という連絡が伝わったという。
電話インタビューに答えていた福島の女性もぼくの田舎の人間たちも、すでに地震発生直後から原発が破局的な状態に陥っていることを知っていた。
東海村の第二原発もやはり津波被害を受け、電源喪失という福島第一と同じ危機に陥ったが、こちらはなんとか電源を確保し、冷却に成功した。
東海第二原発では、昨年の夏に防波堤の嵩上げ工事をして、4mあまり堤防が高くなっていたおかげで、かろうじて最悪の事態まで行かず、まさに首の皮一枚で難を逃れた。
だが、福島第一由来の放射能は田舎の町に降り注ぎ、また太平洋沿岸を南下した汚染で、海も恐ろしい場所になってしまった。チェルノブイリの基準でいえば、強制移住区域だ。311以降、みんなが得体のしれない恐怖と解決策が見えない問題に向きあわさせている。
そんな今だからこそ、『原発ジプシー』を読み、原発の抱える問題の根の深さを知り、社会の構造ものものを変える必要があることを知るべきだろう。
もうすぐ悲劇の2011年が終わり、新しい年を迎える。
新しい年が単なる悲劇でなく人類の終末にならないよう、今年を忘れず、今まで歩んできた間違った道を正す年にしなければならない。
あらためまして、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
投稿情報: uchida | 2012/01/01 12:42
本当に何も変わらないどころか、悪化の一途を、まるで増殖し過ぎたレミングの群れが崖に向かって怒濤の様に押し寄せているように、各地では放射性物質のみならず、PCBやアスベスト入りの瓦礫を"燃やす"という暴挙。何時までも黙ってられないんで、来年はこの国を糾弾する為なら、デモでも署名でも何でもする腹を括りました。そんなわけであと1時間で悪夢の始まりだった2011年は終わりますが、放射能やそれらを産み出し続ける裏の力学システム。さらにはTTPを始め、問題が山積されていますよね。もう、黙ってはいまい…と、立ち上がる年にして、ま、それとは別に楽しい事も精一杯やろうと言う今年の総括です。内田さんともweb上のお付き合いは随分になりますが、来年は、どこかでお会いしましょう。色々あっても、いい事を増やせればいいですね。来年も宜しくお願い致します。
投稿情報: Ez997RS | 2011/12/31 23:08